がん細胞は、分裂を繰り返し増殖し転移するために必要なエネルギー源を、血液中のブドウ糖から得ています。がん細胞のブドウ糖消費量は正常細胞の6倍以上といわれ、がんが身体に存在すると、まさに大量のブドウ糖が血液中から消費されてしまうことになります。そのため多くのがんで、ときに低血糖発作が起こることもあります。
また、糖尿病の場合、ある種のがんの発症率が高くなることも知られています。つまりがんはブドウ糖が大好きで、血液中にブドウ糖があふれていると、生き生きと活動性が増し仲間を増やすことになります。
そしてがんは、自分が必要なエネルギー源であるブドウ糖を効率よく得るために、身体の組織から血液中へ大量のブドウ糖が供給されるように身体を変化させてしまいます。
正常な状態では、血糖値が低くなってくると肝臓を中心として糖新生という機能が働き、血糖値が正常だと糖新生が止まります。ところががんがあると、肝臓での糖新生が常にフル回転となり、血液中のブドウ糖濃度である血糖値が正常であっても、肝臓は血液中にブドウ糖を供給し続けるのです。
肝臓における糖新生の材料は、糖源性アミノ酸です。これは主に筋肉に多く含まれるため、がんが存在するとその活動のエネルギー源であるブドウ糖を作るために、大量の糖源性アミノ酸が消費されることになります。その結果として、がんの患者さんは、筋肉が痩せてきて手足が細くなり、頬がこけるようになってしまうのです。
がんの食事療法で、肉や卵などの動物性タンパク質をひかえることを指導されることがあります。しかし、もしこの食事指導に従い続けると、食事の多くは糖質となり、血液へのブドウ糖の供給源になってしまいます。そのうえタンパク質が足りなくなるため、糖新生によって使われた筋肉を補うことができず、手足が細くなり力が出なくなったり、免疫低下などの変化を食い止めることができなくなるのです。
また、がんが大きくなるために必要になるのがタンパク質です。がん患者さんでは“ナイトロジェントラップ”という現象が起こります。ナイトロジェンとは窒素のことで、窒素を含む栄養素はタンパク質です。がんはブドウ糖同様に窒素が大好きで、自分の成長のために大量のタンパク質を取り込んでしまいます。がんが取り込むタンパク質は全て血液中に含まれているタンパク質で、アルブミンやヘモグロビン、各種酵素、ホルモン等です。特に栄養素を身体中に運ぶアルブミンが足りなくなると、血管からの水分が漏れ出し浮腫がひどくなりますし、身体中へ酸素を運ぶヘモグロビンも重要なものです。
遺伝子の異常を起こしているがん細胞は、もともとの身体にある調節機構を無視して、全くお構いなしに血液中のタンパク質を取り込み、自分を大きくし続けます。すると私たちの身体は、生命活動を維持するために、主に筋肉を犠牲にして血液中にタンパク質を供給し、血液中の重要なタンパク質濃度を保とうとします。
つまり筋肉は、がんが活動に必要なエネルギー源であるブドウ糖を得るために利用され、がんが大きくなるために必要なタンパク質を奪うことで犠牲になるのです。そして、がんのタンパク質利用量は、人の食事からのタンパク質摂取量とは全く関係がないのです。
がんの治療中は、筋肉が細くならないようにしっかりと食事からのタンパク質摂取量を確保し、場合によってはプロテインやアミノ酸などの補給により、筋肉量を確保することと血液中のアルブミンとヘモグロビンを保つことを優先すべきなのです。
ただしタンパク質源として肉なら何でも良いというのではなく、成長ホルモンや抗生剤の投与の可能性のある牛肉や乳製品はやめて、豚や鳥、魚、大豆などから取って行きたいですね。
(参)がんになったら肉を食べなさい