私たちの細胞はもとをたどると受精卵と呼ばれるたった1個の細胞から分裂・増殖して成長したものです。そして、一旦臓器や組織が出来上がると、それぞれの細胞はそれ以上増えることはなく、必要に応じてコントロールされています。
その臓器や組織の細胞の中には、放射線、紫外線、化学物質などや代謝産物などの影響で正しい機能を果たさない細胞が生じています。中には異常増殖してがん細胞になるものもありますが、普段は生命を維持していくために自動的にプログラムされているリスク回避の仕組みがあります。一つは、周囲の細胞に悪影響を与えないように自動的に死滅する「細胞の自殺」いわゆる「アポトーシス」と呼ばれる仕組みです。もう一つが「細胞老化」です。
細胞には命の回数券と呼ばれるテロメアが染色体の端にあり、限度を超えて短くなるとこれ以上分裂出来なくなり「老化細胞」と呼ばれる状態になります。
この老化細胞は、細胞分裂もせずに生体内において長期間生き続け「ゾンビ細胞」とも呼ばれます。老化細胞はがん化のリスクを回避する点では必要な仕組みですが、長期的な視点ではやっかいなものだということが分かってきました。
それは、老化した細胞が体内に蓄積していくと、様々な炎症性サイトカインを産生・分泌させる「細胞老化関連分泌現象(SASP)」を引き起こします。この現象は本来、老化細胞が自らを始末させるために白血球などの免疫細胞を呼び寄せるものです。
しかし、過度に老化細胞が蓄積されると不都合なことが生じます。年齢や生活環境の影響で免疫細胞がうまく働かなかったりして老化細胞が頻繁に起こることで、SASPによって放出され続ける炎症物質が、周囲の健康な臓器や組織に慢性的な炎症を誘発し、身体機能の不具合を引き起こすのです。
SASPが原因で慢性炎症が生じると、心血管疾患、糖尿病、白内障、慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー型認知症、骨粗しょう症、変形性膝関節症など、様々な病気につながることが明らかになりました。
ですから、老化細胞はただ邪魔だけではないのです。
そして、細胞老化を防いで細胞を若返らせることで老化細胞の蓄積を減らしたり防ぐことが大切になります。それが、日々細胞をメンテナンスする「オートファジー」という機能です。細胞が自らの成分を分解処理する自食作用のことで、細胞内のリサイクルのシステムでもあります。このオートファジーというシステムをしっかり働かせることが、細胞の若さを保ち病気を予防することになります。
そのためにはしっかりした睡眠と適度な運動、そして腹八分の食事です。特に、60歳を過ぎるとオートファジーやアポトーシスの働きも一気に低下するので、そのころからは無理をせず睡眠をしっかり取ることです。また、納豆や味噌に含まれるスペルミジンはオートファジーを活性化することが確認されているので、やはり「ま・ご・わ・や・さ・し・い・わ」を基本にした食事にしていきましょう。
ちなみに、プラズマ療法は老化細胞をアポトーシスに導いたり、細胞のメンテナンス機能を高めることが実臨床で確認されています。ぜひ、体内からのアンチエイジングとしてご活用下さい。
(参)食と健康のマーケティング