小児のアトピー性皮膚炎治療を混乱させる問題は大きく2つあり、食物アレルギーとステロイド外用治療とがあります。
今回は、大阪大学医学部出身で脱ステロイド、脱保湿治療に取り組んでいる佐藤健二、佐藤美津子両医師の著書「赤ちゃん・子どものアトピー治療」より、小児期におけるステロイド外用剤を使わないことのメリットをお伝えします。
本来、アトピー性皮膚炎の治療ですと、ステロイド外用剤がファーストチョイスとされていて、皮膚症状を短期間で確実に抑え込むことが出来ます。早く痒い症状を抑えて楽にしてあげたい、早く湿疹を抑えてアレルギー症状への発展を減らしてあげたいと思うからです。
ところが、痒がっている子どもをすぐに治してあげるという単純な治療思想が本当に正しいのかどうかということが問題になっています。
それは、「確実な方法は、必ずしも安全な方法ではない」からです。調査の結果、ステロイドを使用しない子どもの湿疹が、ステロイドを使った子どもの湿疹よりも早く治り、ステロイドを使った子どもにおいて、再発も多かったのです。
また、幼少期にごく軽症で「その程度の湿疹に、ステロイドを外用しても将来全く問題が起こりません」と医師に言われてステロイドを塗り、いったんはすぐに治った人が、大人になって全身が真っ赤になって受診されたのです。
研究の中に、皮疹部分が全身に拡がってしまった、成人型アトピー性皮膚炎の患者さんの幼少期の皮疹の程度を調べた調査結果があります。幼少期にごく軽症のアトピーであっても、ステロイド治療した場合は、大人になってステロイドの副作用症状としての皮疹、アトピー性皮膚炎にはあまり起こらない部位に皮疹を持つ成人型アトピー性皮膚炎がかなり起こるということを示していました。
ですから、「ステロイド外用は確実ではありますが、必ずしも安全であるとは言えない」という結論になります。
そして、ステロイドなしでも、アトピー性皮膚炎は数ヶ月すれば治ることが分かっています。子どもの皮膚が悪化すると親は不安になりますが、ステロイドは外用せず、焦らずにゆっくりと治す方法を選ぶ方が良いのです。多くのアトピー患者は軽症なので、実際はあまり心配することはありません。
佐藤小児科を受診した患者を、ステロイドを使用してきた患者129名とステロイドを一度も使っていない患者312名の2つの群に分けて、ともにステロイドを使用せずに治療しました。ステロイド使用群と不使用群の間で、受診した平均月齢が前者で4.5ヶ月、後者で3.3ヶ月であったこと以外のバックグランドに差はありませんでした。
結果、ステロイド使用群の顔の湿疹が消失するのには、平均6.4ヶ月かかり、ステロイド不使用群では平均4.8ヶ月でした。つまり、ステロイドを初めから使用しない方が、1.6ヶ月早く良くなっていました。しかも、ステロイド使用群では、その一部の子どもで非常に長期に渡り治りにくい人がいたことです。また、いったん治った後の再発率は、使用群で不使用群の3倍近くに達していました。
成人の患者で、ステロイドを使用して治らない人が脱ステロイドをすると、ほとんど全ての人が良くなっていかれることを考え合わせると、最近アトピー性皮膚炎患者が治りにくくなっている理由は、ステロイド外用によって、治るのが遅れている、あるいは治らなくなっていることを強く示唆するものであるとのことです。
以上から考えますと、アトピー性皮膚炎のステロイド外用は最良の治療と言えないでしょう。「急いてはことをし損じる」とはよく言ったもので、小児の軽症の皮膚炎には、ステロイド外用は必ずしも安全ではないのです。
(参)赤ちゃん・子どものアトピー治療