現代、日本では、不妊を心配したことがある夫婦の割合は35%、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は全体で約18%、患者数は約50万人とも推計されています。
なぜ、こんなにも妊娠しづらくなってしまったのかは、現代の生活習慣の影響は大きいと言えます。睡眠を含めた生活のリズム、ストレスや電磁波、放射線、ワクチンも含めた薬剤等も考えられますが、何より私たちの体を構成するための食事の影響は計り知れません。
添加物や遺伝子組み換え食品もありますが、ここでも糖質の過剰摂取があります。
今回は、この糖質過剰摂取の観点から不妊症を考えて見ましょう。
適切なインスリン様成長因子(IGF-1)が卵胞の成長に必要であるため、糖質過剰摂取による全身的なインスリン抵抗性はもちろんのこと、卵胞などの局所的なインスリン抵抗性がミトコンドリア機能障害を起こして、不妊へとつながるのです。また、子宮内膜の局所的なインスリン抵抗性は、着床障害の一部の原因とも考えられます。
さらに、糖質過剰摂取によりAGEsが増加し、酸化ストレスも高まり、炎症も促進され、不妊のリスクが高まるのです。
不妊治療を行っている157人を対象にした研究では、AGEsが多いグループは、AGEsが少ないグループよりも採卵個数が40%以上少なく、受精も40%前後少なく、妊娠の継続率も80%以上少ない結果がでました。
不妊の原因になりやすいPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、全身のインスリン抵抗性が根底にありますが、無排卵性不妊症の70%はPCOSに関連しています。また、PCOSではせっかく妊娠しても流産が通常よりも3倍も多くなっています。
また、PCOSと子宮内膜症との合併は珍しくはありませんが、どちらも炎症を起こしやすいことを考えれば、その炎症による卵管癒着をもたらし、卵管障害による不妊の原因にもなります。
さて、男性の不妊症については、約60~70%が原因不明とされています。しかし、原因不明の男性不妊では、インスリン抵抗性が認められています。
744人の不妊男性からのデータを分析したところ、不妊男性の約15%が、未診断の糖尿病予備軍と判定されました。
勃起不全(ED)もインスリン抵抗性との関連性が指摘されています。EDの男性の半分以上にインスリン抵抗性を認めています。
当然、糖尿病ではEDのリスクが高く、糖尿病のない人と比べると3.5倍にもなるのです。糖尿病は、精子の質、機能にも影響を与えます。
このように、女性側にも男性側にも糖質過剰摂取による高血糖、AGEsの増加、インスリン抵抗性などによる不妊が起きていると考えられます。
不妊治療には、まずファスティングや糖質制限が重要だと考えられます。
数は少ないが、不妊のPCOSの5人の女性が、1日20g以下の糖質制限食を24週間行ったところ、空腹時インスリン値は50%以上低下し、男性ホルモンのテストステロンも30%も低下しました。そして、この研究期間中に2人が妊娠しました。
スイーツ好きの若い男女は多いが、そのスイーツは血糖値を上げ、AGEsを増加させ、インスリン抵抗性を生み、体を傷つけ、子孫を残すための非常に重要な体内環境を狂わせているのです。
さて、妊娠の経過が進んでいくにつれ、母体は自然とインスリン抵抗性になっていきます。正常妊娠でもインスリン感受性が60%低下します。それは、ブドウ糖を自分の体で溜め込まず、胎児に優先して送るためだと考えられています。進化の過程では糖質過剰摂取はほとんどなかったため、肝臓によるブドウ糖の産生は30%増加し、母体のインスリン抵抗性を増加させることにより、胎児にエネルギーを送るメカニズムを獲得したのです。
妊娠中に初めて発見される耐糖能異常である「妊娠糖尿病」の女性では、妊娠後期にインスリン感受性が有意に低下しますが、それは妊娠前にすでに存在していたインスリン感受性の低下を反映しています。
つまり、何もなかったのに妊娠したから妊娠糖尿病を発症したのではなく、元々気付かないうちにインスリン抵抗性を有していた人が、妊娠してさらにインスリン抵抗性が高まったために妊娠糖尿病になると考えられます。
妊娠糖尿病の人が、出産後、2型糖尿病になったり、心血管疾患を発症したり、乳ガンなどのいくつかのガンのリスクが増加するのも、根本原因が同じなので当然です。
さて、肥満の母親から生まれる子どもには、先天的な障害が多くなっています。高血糖、高インスリン血症が母親の肥満を招き、胎児の形態異常を誘発しやすくしていると考えられます。
アメリカで行われた研究によると、1型糖尿病の母親から生まれる子どもにおける主要な形態異常の相対リスクは、非糖尿病の母親から生まれる子どもと比較して7.9倍であり、主要な中枢神経系と心血管系の形態異常の相対リスクは、それぞれ15.5倍と18倍でした。妊娠後期にインスリンを必要とする妊娠糖尿病の母親から生まれる子どもは、非糖尿病の母親の乳児よりも、心血管系に大きな欠陥がある可能性が20.6倍も高くなっていました。
母親の血糖値が高いと、先天性心疾患を発症する可能性が最大5倍高くなります。高血糖に曝されると胎児の心臓の細胞は成熟が遅れるか、そのまま成熟できないかで、いずれにせよ未成熟の細胞が多く生成されてしまいます。
また、妊娠糖尿病では、早産、帝王切開や肩甲難産が増加し、巨大児が増加します。
アメリカの約42万人を分析した研究では、母親が1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病であると、糖尿病がない母親と比較して、自閉症児が増加していました。特に、妊娠初期の段階での高血糖や高インスリン血症が自閉症と関係していると考えられました。
生まれてすぐに赤ちゃんは母乳を摂取しますが、糖尿病の母親の母乳を飲んだ赤ちゃんは発語が遅れるという報告があります。また、新生児が糖尿病の母親の母乳をたくさん飲むほど、肥満のリスクが高まり、幼児期の耐糖能障害を引き起こすことが研究で示されています。
お腹の中でも母親の糖質過剰摂取の影響を受け、生まれてからも母乳で影響を受ける可能性があります。糖尿病や肥満の母親から生まれた子どもは、通常より出生体重が重いことが多く、小児期にはメタボリックシンドローム、インスリン抵抗性を発症するリスクが高くなります。糖質過剰症候群は母親だけの問題だけでなく、自分の子どもにまで伝わってしまうのです。
ここで、母乳についてですが、母乳の利点は非常に大きいものです。人工乳や果汁などには乳児の腸は対応できません。人工乳は、母乳とは大きく異なり、異物です。生後6ヶ月までは、可能な限り母乳で育てた方がよいと考えています。
世界保健機構(WHO)では、6ヶ月までは完全母乳で赤ちゃんを育て、その後も2歳までは母乳を与えることを推奨しています。良い母乳を与えるための良い母体を作ることが重要なのです。
酸化や糖化といった体内環境を意識して、体に入れる食事に気を配って過ごして行きましょう。
(参)「糖質過剰」症候群