小さいとき、お腹が痛くなった時に、お母さんが痛くなったお腹に手を当ててくれたことがあるかもしれません。そうすると、なぜか痛みも和らぎ、安心するのです。
今回ご紹介する“タクティールケア”は、スウェーデンの医療現場発症のタッチケアです。
語源は、ラテン語のタクティリスで「触れる」という意味です。優しく触れることで相手が癒され、不安やストレス・痛みを緩和する効果があるのです。
使うのは施術者の手のみで、言葉を使わなくてもできるため、「非言語コミュニケーション」として医療・福祉などの現場で活用されています。
タクティールケアは1960年代、スウェーデンの未熟児医療の看護師によって始まりました。看護師が母親代わりに、乳児の体を毎日優しく触れることで、体温の安定・体重の増加といった変化が現れたことから生まれたメソッドです。
1996年になると、認知症緩和ケア教育専門機関が認知症ケアとして導入したことで、各地に広がっていきました。
タクティールケアとはタッチケアのひとつであり、いわゆるマッサージや指圧などとは異なります。その手技は一定の圧力・速度で行い、終始手を離さずに行いますが、ツボ・リンパ・筋肉などを意識する必要はありません。医学や解剖学といった特別な知識は必要なく、力の加減や速度などの手法を取得さえすれば手軽に行うことができます。
また、非言語コミュニケーションのひとつでもあり、会話がうまくできない、言葉で感情をうまく伝えることができない人にも有効に活用できるため、現在は医療現場だけではなく介護・障害児ケアなどさまざまな現場へ広がっています。
タクティールケアがもたらす効果は大きく分けて2つあります。
① オキシトシンの分泌
人とのふれ合いやペットとのふれ合いで分泌される「オキシトシン」という“幸せホルモン”です。脳の視床下部で作られており、癒し・ストレスや不安の緩和・意欲の向上といった作用があります。一般的には産後の女性が授乳すると分泌されますが、人とふれあうタクティールケアでも、このオキシトシンを分泌する効果があります。
② ゲートコントロール作用による痛みの緩和
ゲートコントロールとは痛みに関する学説のひとつです。脊髄内では神経伝達が行われており、痛覚は脳に痛みを伝える「ゲート」を通ることによって感じると考えられています。タクティールケアではこのゲートを閉じる作用があるといわれ、その作用により痛みが緩和する効果があります。
タクティールケアの研究によって、「心地よかった」「リラックスできた」「穏やかになった」「眠気を催した」「夜よく眠れた」「痛みが和らいだ」「便通が良くなった」「積極性が増した」など、さまざまな効果が確認されています。
これらの事例から、タクティールケアによりリラックスできたことで、副交感神経が優勢となり、眠気を催した、腸の働きが活性化した、穏やかになったなどの効果があったと思われます。
以上のように、タクティールケアのような手当ては多くの良い効果をもたらし、ケア対象者だけでなく、施術者にもその効果が働くことが分かっています。かわいいペットをなでると癒されますよね。気になる方へ、思いやりから自然に手を当ててみませんか。